学長室だより

目には目を、歯には歯を

裁判員制度にちなんで法に関わる題材を選んできましたが、語り落としてはならないものに復讐法と誤解されているタリオ(同害報復刑)があります。
表題の言葉は復讐を合法化するものではありません。報復を勧める格言でもありません。古代メソポタミアにはこの言葉をそのまま使った法がありますが、自由人同士の傷害事件が報復合戦に拡大するのを防止する目的で定められたものです。金銭による賠償でなく、他人の目を潰すような暴行を加えた者は、自分の目をもって償わなければならないというのです(ハンムラピ法典196条)。被害者が奴隷だと、奴隷価格の半分で、加害者が奴隷の主人に償うことになっていました(同199条)。差別を前提にしていますが、賠償でなく厳しい償いを求めているのは、責任ある自由人が軽々しく暴行傷害事件を起こさないようにと警告しているのです。
「目には目を、歯には歯を」が合い言葉であるなら、復讐が復讐を生むでしょう。復讐が身内の義務だとすると、相互の関係は深く傷つき、共同体は危機に陥ってしまいます。ひとつの目にはひとつの目と限定しつつ、自分の肉体をもって償うようなことがないよう、尊厳ある行動を求めているのです。(鈴木 佳秀)