学長室だより

カッコウの鳴く季節に、ふたたび

カッコウの声の聞こえる季節となりました。5月31日のチャペル・アッセンブリ・アワーでは写真家の森本二太郎先生から「平和へのこみち」と題して、平和のために私たち小さき者に何ができるのかをトルストイの寓話や森の写真をとおして心に残るお話をしていただきました。雨水にあたったコナラの葉、生まれたてのカラマツの松ぼっくりの端正なデザイン、さくらんぼのようなタケシマランの赤い実、毒キノコといわれていながらユーモラスな愛らしい姿をしているベニテングタケなどの写真を見せながら、植物を「この人」と語る先生が、森の一つひとつの命をこよなく愛しておられることが伝わってきて、『たのしい川べ』の作者のケネス・グレーアムが自分の作品に登場する動物たちについて、挿絵画家に言った”Be kind to these people.”という言葉が思い出されました。動植物は自分の周りにいる存在を体中で感じ取ろうとしており、「その存在のままで本当に美しい」という先生の言葉に、大きくうなずきました。相手に報いてもらうことを一度棚上げして、一人の人に向き合う時に自分の窮屈さから解放され、平和が得られると先生はおっしゃいます。先生のお話の後でカッコウの声を聞いていると、宮沢賢治の『セロひきのゴーシュ』を思い出しました。茂田井武の絵がついた絵本です。はじめ邪魔だと思っていた動物たちの訪問から実はゴーシュ自身が教えられ癒されていたこと、そしてゴーシュの音楽が動物たちを癒していたという、ゴーシュの世界とそれまで知られることなく併存していた動物たちの世界が感応し合っていたことが分かります。ゴーシュに命がけで歌ってみせたカッコウが飛んで行った空を眺めて、ゴーシュは「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれはおこったんじゃなかったんだ。」と言います。人間には、なんと大きな恵みと責任が託されていることでしょう。(金山 愛子)

チャペル・アッセンブリ・アワーでは森本二太郎先生にお話しいただきました

「セロひきのゴーシュ」宮沢賢治 作、茂田井武 画